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東京高等裁判所 昭和35年(行ナ)118号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕(審決を取り消すべき事由の有無について)

二 原告は、本願発明と引用例との相違点及び一致点は、本件審決認定のとおりであるが、相違点の発明力に関する本件審決の判断は誤りである旨主張するが、右主張を肯認することはできない。以下、その理由を説示する。

当事者間に争いのない本願発明の要旨<書証>により認めうべき本願出願前公知であつた第九五三〇五七号フランス特許明細書に本願発明における「雌ローターのピッチ円の外側にある雌ローターの陸部分が実質的に対称な凸彎曲円形輪廓であり、雄ローターのピッチ円の内側にある雄ローターの陸間に形成された溝が実質的に対称な凹彎曲円形輪廓である」こと、雄ローターのフランク部分を創成曲線とすること及び密閉稜についていずれも記載されている事実を参酌考量すれば、本願発明と引用例との相違点に関し(1)雌ローターの陸部尖端の輪廓及びこれと作動する雄ローター部分の輪廓及び(2)雄ローターのフランク部分の曲線のいずれの点においても、その構想に発明力は存在しないとした本件審決の認定は正当なものといわざるをえない。これを詳言すれば、この種螺旋ローターにおいて、雄、雌一対のローターは(a)相互が間断なく噛合状態にあつて回ること及び(b)ローター相互間及びこれらとケーシング間の間隙は小さくできるほどよいことの二点をその基本的な条件とすることは、前掲各証拠によつて明らかなこの種ローターの使用目的に照らし、容易にこれを窺いうるところ、右(a)の条件を満足せしめるためには、雌ローターのピッチ円の外側の輪廓がきまれば、雄ローターの陸間のピッチ円の内側の輪廓は、機構学上、必然的にきまるものであり、普通、ローターの陸の頂部は、前掲(b)の条件を満足するためにクリヤランスを極力小さく取るか、あるいは、引用例特許公報にも明示されているように、密封稜を特設してクリヤランスに幾分の余裕を与えることが、慣用技術として行なわれるものであることは本件弁論の全趣旨に徴し明らかであり、また、雄ローターのフランク部分の曲線に関し、該部分が雌ローターの陸の点によつて創成されるということは、本件審決もいうように、前掲(a)、(b)の条件を充足するためには、必然的にとらるべき設計上の手段であることは機械技術の分野において周知のことである(このことは本件弁論の全趣旨により明らかである)から、本願発明と引用例との前掲相違点に発明というに足りるいわゆる進歩性を肯定することはできない。

この点に関し、原告は、請求原因四の項摘記のとおり、本願発明においては、(イ)「雌ローターのピッチ円の外側にある雌ローターの陸部分が実質的に対称な凸彎曲円輪廓であること」及び(ロ)「雄ローターのピッチ円の内側にある雄ローター陸間に形成された溝が実質的に対称な凹彎曲円形輪廓であること」をその最も重要な特徴とするところ、引用例にはこのような構想は開示されておらず、しかも右(イ)の具体的形状は、(ハ)「雌ローターのピッチ円外側の隆起は、雌ローターのピッチ円上の中心点Pによる円弧aの形を有し、雌ローターのデデンダムに連なるアデンダムをなすもの」であり、同じく(ロ)の具体的形状は、(ニ)「雄ローターのピッチ円上にある中心点P'による半径R'の円弧a'の形を有し、雄ローターのアデンダムに連なるデデンダムをなすものであり、このような雄ローターの凹彎曲円形輪廓の溝と、これに対応して雌ローターの凸彎曲円形輪廓の隆起とを形成することは、引用例から、類推しうるものではない旨主張するが、前掲各証拠を総合考量すると、本願発明における「凸彎曲円形輪廓」又は「凹彎曲円形輪廓」とは、凸出又は凹入した状態に彎曲した円味をもつた曲線の形の輪廓を意味し、必ずしも幾何学的意味における円弧を意味するものではないと解され、したがつて、前記(イ)、(ロ)の具体的形状は、必ずしも、原告の主張するように、前記(ハ)、(ニ)のみに限定されるものとは解しがたいから、仮に引用例から右(ハ)、(ニ)の具体的形状の輪廓を類推することは困難であるとしても、そのことから、直ちに、他に多くの凸又は凹の彎曲円形輪廓を含む本願発明そのものを類推しえないとすることはできない。

また、原告は、本願発明においては、請求原因五記載のような引用例を含む従来のこの種機関に見られない特殊な作用効果を挙げうるものである旨主張するが、原告のいうところの特殊の作用効果なるものは、本願発明において始めて奏される作用効果とは認めがたい。すなわち、被告指定代理人も指摘するように、この種機関の雌雄のローターの直径は、基本的には、各ローターのピッチ円の直径によつて決定され、ピッチ円の直径は両ローターの歯数の比で決定されるものであることは明らかであり、両ローターの直径を等しくするに有利な歯数の比、すなわち、雄ローター四、雌ローター六は、引用例により公知である。このような歯数をもち、かつ、引用例を含む従来周知の歯形をもつこの種螺旋型ローター機関においても、同一直径をもつ雌雄ローターを製造することは可能であることは、引用例の第四図に示すものが、雌雄ローターがほぼ同径か、むしろ、雌ローターの方が大きいと認められることのほかに、<書証>において、公知のものとしてフルアデンダム歯形をもつものとの比較の対象にしている機関の雌雄ローターが同じ直径を有することによつても明らかである。また、原告主張の押退体積の増加の効果も、本願発明が要旨とするように、雌雄の歯形を変形させることによりもたらされる効果ということはできない。すなわち、この種機関の押退体積は、雌雄ローターの陸部間に形成される溝部分と、ケーシングの内壁面とで囲まれた空間の体積によつて定まるものであり、この空間内のガスが排出されるのであるから、この体積の空間が一定であれば、密封線の形、すなわち、歯形によつて押退体積が変化することはないことは、この種機関の構造に徴し明らかである。また、雌ローターの歯先を伸ばせば右空間の体積、すなわち、押退体積が増加することは当然であり、引用例のような雌ローターにおいても、歯先の伸縮がある程度行なわれうることは周知の事項に属することは弁論の全趣旨により明らかなところである。このような雌ローターの歯先の伸縮は、これと見合うだけ、この雌ローターと噛み合う雄ローターの溝の深さの増減を伴い、雌雄ローターの増減が相殺するという理由にもより機関の重量の増減は、押退体積の増減に比して僅少であることは、その歯形の如何にかかわらず、この種機関の構造上必然のことであり、本願発明が要旨とするように、雌雄ローターの歯形を変化させることによりもたらされる効果とはいいがたい。これを要するに、原告の主張する特殊な作用効果なるものは、本願明細書に記載された特定の実施例の場合には、最も良好な状態において現われるものであり、本願発明の範囲内でも、右実施例以外の場合には、密封線が軸の中心線に対し直角の位置から変化するため、その効果の現われる状態が劣悪となり、密封度が低くなるものと解されしたがつて、右の最良の状態における作用効果がすなわち本願発明のすべてに通ずる効果とは認めがたいから、本願発明全体の作用効果としては格別の特殊性があるものと認めることもできない。原告の挙示援用するすべての証拠によつても、前認定をくつがえし、原告の主張を肯認するに足りない。もつとも、前掲第八、第九号証(いずれも鑑定書と題する書面)には、本願発明の一実施例として記載されたフルアデンダム歯形ローターのものと引用例のものに相当する標準歯形ローターとを比較して、その優劣を論じ、原告の主張を支持するような記載があるが、このフルアデンダム歯形のローターは本願発明の一実施例として明細書に記載されたものにすぎず、したがつて、これを引用例のものとの比較をもつて、直ちに本願発明に包含されるすべてのものとの比較と見ることはできないから、右甲号各証記載の見解をもつて、本願発明と引用例との比較論における結論とすることできない。

なお、原告は、雌ローター輪廓のピッチ円外側の陸部分(アデンダム部分)の根本に創成曲線の面が形成されていることが本願発明の特徴に基づくものであると主張するが、このような面の形成については本願発明の要旨に触れるところはなく、右雌ローター輪廓のピッチ円外側の陸部分の根本に創成曲線の面を形成したものも、「実質的に対称な凸彎曲円形輪廓」に含まれるが、それは単なる実施例の一にすぎず、他にもこれに含まれるものがありうることは明らかであるから、原告の右主張は、本願発明の一実施例における特殊の効果を強調するにすぎず、もとより本願発明の全面的効果に関するものとは認められないから、採用に値しない。

(むすび)

三 以上詳説したとおりであるから、本件審決をもつて、本願発明と引用例との相違点に関する判断を誤つた違法があるものとしてその取消を求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかはない、よつて、これを棄却する。(三宅正雄 石沢健 滝川叡一)

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